歌を忘れたカナリア
2008 / 02 / 23 ( Sat ) ある朝目が覚めたら、犬猫屋敷に大問題が起こっていた。まるでとつぜん春になったような、こんなにバカ陽気の日が続くちょっと前の話である。
通常どおり、管理人が寝ぼけ眼でトイレに行って、ふらふらと部屋に戻ってきたときのことだ。これまたいつものように、5分ぶりに愛する飼い主に再会して、嬉しさのあまりついつい朝の発声練習をしてしまう姫の声が何かいつもとちがっていた。 おかしい、姫ちゃん、声が小さくなってるo(;△;)o 声が枯れているわけではないのだ。ただ、いつもなら腹の底から朗々と歌うのに、その日は咽だけで歌っていた。 おかしい、なにかがすごくおかしい! あいにくその日はいつも行く動物病院の休診日で、しかたがないのでその日は1日様子を見ることにした。食べ過ぎの腹下しぐらいでは病院に連れて行かない管理人だが、姫の声が出なくなったなどという大問題が起こったときは、もちろんすぐに病院に駆け込むのだ。 だって、姫が歌えなくなったらどうするよ? 歌を歌わない姫なんて、姫じゃないっしょ? ちなみに、声がおかしいとはいえ、ふつうの犬ぐらいのボリュームでは鳴いているのだ。姫を知らない人ならば、たぶん変だとは気づかないだろう。向こう三軒両隣ぐらいに鳴り響く声では鳴いている。だが、町内会全部に響き渡るような声で鳴かないなんて、姫としては変なのだ。本犬としては、別におかしいとは思っていないようだった。声を出すと咽が痛むとか、そういうそぶりも見せなかった。いつものようにふつうに歌っているのだが、ただ声がいつものように出ていないというそれだけなのだ。 結果的に良かったのか悪かったのかはわからないが、姫のこの変な声はけっきょく翌日には治ってしまった。翌朝の姫の発声練習は、またいつもの朗々とした歌声に戻っていたのだ。症状が出ていない以上、医者に診せてもあまり意味はないのだが、チビ姐さんの薬をもらいに行くついでにいちおう姫も連れて行って診てもらった。 姫はああ見えて内弁慶なところがあるので、医者に連れて行くとじつに神妙でおとなしい良いコに変身する。だから、病院で吠えたことがないので、かかりつけのお医者さんはじつは姫の声を知らない。まあ腹の底から声を出すのはビーグルの特性だし、それはわかってもらえたのだが、それがどうおかしかったのか説明するのが難儀だった。 「ふだんは『千の風』を歌ってる人みたいな声が、その日だけ青江美奈になっちゃったみたいな感じなんですよ」 「なるほど、わかりました」 こんな説明でわかってくれる医者もすごいな、と管理人は思っていた。だが、症状はわかったものの、結局それに該当するような病名はわからなかった。犬も猫も風邪をひくと咽が枯れてガラガラ声になることはあるのだが、それとはちょっとちがうのだ。咽になにかが詰まったときは、変な声になるより先に異物を押し出そうと盛んに咳をするようになる。咳はぜんぜん出ていなかったし、声がおかしいという以外は至ってふつうだったのだ。元気で食欲もあったし、熱があるようにも見えなかった。咽にポリープなどができている場合は、1日でころっと治ることはありえない。だいたい、姫は8時間絶叫し続けても声が枯れることのない強靱な咽の持ち主だ。前の晩はふつうに歌っていたのに、翌朝起きたら声が枯れてたなんてまずふつうでは考えられない。 結局その時は原因が判らずじまいで、また同じ状態になったら動画を撮っておいてくださいと言われて病院をあとにした。 声が出なくなったとはいえ、ふつうの犬程度の声では鳴いているわけだし、ふだんから声がやたらと大きいのが悩みなのだから、これ幸いと思っても良いのかもしれないが、やはり姫はあの声で鳴くからこそ姫なのだ。歌を忘れたカナリアはやっぱりカナリアじゃないのだ。 幸いなことに、その後は同じ症状が出ない姫ちゃんは、きょうも元気に町内中に響き渡る朗々とした声で発声練習を続けている。 ![]() |
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