発想の転換
2007 / 03 / 10 ( Sat ) どんな場合でも苦手を克服すべく日々精進するのは犬を飼う上でとても大切な姿勢だと管理人は思っている。別に姫に、このフラットと仲良くお尻の臭いを嗅ぎあえとはいわないし、管理人もこの飼い主と仲良く談笑したいとは思わないが、せめてお互い無視して通り過ぎるていどの関係にはなりたいのだ。それに、ここでこれを克服しておけば、やがてどこかで会うであろう次の姫の気にくわない犬に会ったときも、対処する方法を身につけられる。
というわけで、管理人はふたたび頭を使ってどうしたらいいかを考えた。 ギャン吠え犬に吠えるのを止めさせるのは難しい。つまり、吠え始めてしまうとそれを止めさせるのはたいへんなのだ。これは、管理人が長年の犬飼い生活で学んだレッスンである。ゆえに、最初から吠えさせないということが重要となってくる。 犬を吠えさせないための常套手段は、その場にオスワリマテをさせて、犬の意識を飼い主に向けさせることだ。そんなことはどんな躾本を見ても書いてあるし、どのトレーナーに訊いてもそうすべきだという回答が返ってくる。だが問題は、ふつうの飼い主にとって、そばを犬が通りすぎた瞬間に愛犬の意識を自分に集中させじっとオスワリマテをさせるのが何より難しいということだ。そこで「オスワリマテ」といっただけで、おとなしく座って待てるような犬だったら、最初からこんな苦労はしていない。 姫の場合は幸い、いったんオスワリをさせられれば、その後はある程度集中して待つことができるようになっている。ならば、とにかく何でもいいから姫を座らせてその注意を管理人のほうに向けさせればいいはずだ。 むろん、管理人に注意を向けるといった場合、理想としては管理人の目をじっと見つめ、「次に何をすればよろしいでしょうか、ご主人さま?」と期待でウルウルした目をしてもらえれば言うことはないのだが、姫がよくできたメイドみたいにそこでアイコンタクトができるような立派な犬であれば、むろん最初からギャン吠えに悩んだりはしないのだ。だからこの際、注意を向ける場所はおやつが出てくるポーチでも、ベイトを握った右手でもかまわない。 ちなみにツイテのお稽古を初めて早1年あまり、あいかわらず姫のなかの管理人の順位はレバー、ポーチに続く第3位である(そのときのいきさつはこちらを)。いつまで経っても牛の臓物と張り合っている情けない飼い主なのだ。 だが、この際そんなことはいってられん。もし姫がじっと座ってフラットをやり過ごしてくれるのなら、管理人は牛を背負って歩くのも厭わない。 というわけで、ここ数ヶ月管理人はさまざま方法を試してみた。問題のフラットをやり過ごすのに安全な距離を測り、さまざまな食材をベイトとして試し、声の調子を変え、最後は首輪にジャークを入れることすら試してみた。だが結果はどれも思わしくなかった。あいかわらず姫はフラットとすれちがうたびにギャンギャン大騒ぎを続けたのである。 はてと……他にどういう手段があるだろうか? そこで、ふたたび根本に立ち返って考えてみた。姫という犬はセントハウンド(臭いを追うために作られた猟犬)の血を濃く引いているだけあって、臭いにはとにかく敏感だ。つまり、姫の知覚のなかでは臭覚が飛び抜けて発達しているということだ。じっさい、オスワリやツケをさせているとき姫がコマンドを無視して突進するのは、たいていどうしようもなく魅力的な臭いを追うときで、そうなるとイグアナと化した姫にふたたび上を向かせるのは至難の業なのだ。 つまり一番敏感な臭覚を刺激するのが姫には一番効果があるということだ。 たしかに、ただの乾きもの(ジャーキー類)を使うより、牛レバーを使った方が姫は管理人の言うことをよく聞くようになる。同じ牛レバーでも、ただ冷蔵庫から出しただけより、ちょっと炙って臭いをたたせたほうがより一層効果が上がる。つまり、姫にとっては臭いで釣るということが何より効果的なのだ。ゆえに数メートル先からでもわかるぐらい臭いのきついベイトを使えばおそらく姫はどんなときでも管理人に意識を集中させていられるのだろう。だが、問題は管理人自身が臭い人になって毎日暮らしていきたいかという点なのだ。 発想の転換。遠い距離でも臭いがわかる臭いものを使わなくても、距離を短くすればいいのではないか? そこで、次に問題のフラットに会ったとき、試しに鼻の穴に突っ込まんばかりに姫の鼻先にジャーキーの束を押しつけてみたのだ。 ピンポンピンポンピンポ〜ン♪ これは、大正解だった。敏感な鼻先に大好きなおやつを突きつけられた姫は、まさにうっとり恍惚の表情となり(目は鼻先を注視するのですっかり寄り目)横を天敵が通りすぎるのにも気づかず、じっとジャーキーを見つめ続けてその場に座っていることができたのだ。ちなみにいったんベイトに意識を集中させれば、その後はおやつを鼻から離していつもの位置で持ってもまったく問題はなかった。 Good Girl!!!! 言うまでもないことだが、管理人は専門的な犬のトレーニング方法など何も知らない素人だ。たまたまうちの姫にはこの方法が最適だったというだけで、これがどんな犬にも当てはまるわけではないし、ましてや鼻先にベイトをすりつけるというのは即効性はあるが、同時にダウンサイドもある方法だ。何より、ベイトを外すという次のステップに行くときに相当時間がかかるだろう。それに、もろに餌で釣っているというそのやりかたは、はっきり言ってみっともない。じっさい、通りすぎるフラットの飼い主が「何をやってんだか、あのバカ飼い主」という目で見ていたのを、管理人は見逃さなかった。 でも、とりあえずこれで姫は天敵に吠えかからずに巧く相手をいなすことができるようになったのだ。吠えないでいてくれないことには、吠えずに通りすぎることが良いことだと教えることも不可能だ。 どこの躾本にも書いてない、ちょっとおかしなしつけ術。管理人と姫のオリジナリティーあふれるトレーニングはこれからも続いて行く。 |
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