雷雨
2006 / 09 / 11 ( Mon ) 明け方の雷雨はひどかった。
雷嫌いの姫さんが、何やらうろうろし始めたな、と思ったとたん屋根が壊れるのではないかと思うほどの、バケツをひっくり返したような雨が降ってきた。続いて、轟く雷鳴。 この時点で、もう姫さんはパニック状態である。 「大丈夫だよ、姫ちゃん。部屋の中にいれば大丈夫だから。管理人がそばにいるから大丈夫」 そういくら繰りかえしても、姫の震えは止まらない。姫の犬生のどの時点でかは判らないが、雷は恐ろしくて危険なものという刷り込みがなされてしまっているのだ。刷り込まれた恐怖心をぬぐい去るのは容易ではない。 それでも、管理人が家にいるときはまだいいのだ。管理人の足下にうずくまって雷雨が通り過ぎるのを待っていられる。 問題は、管理人が出かけているときだ。たとえば出稼ぎ中に雷を伴ったにわか雨が降ったりすると、姫はパニック状態に陥って、ドアを突き破って悲鳴を上げながら部屋と廊下をかけずり回る。いまはジィジ・バァバも姫が大の雷嫌いだと判っているが、最初にそのようすを見たときは、なにが起こったかと仰天したらしい。 雷が鳴ったら、窓をすべて締め切り、なるべく外の音が聞こえないよう対処する。できれば人間がそばにいて、怖くないと言いきかせてやる。うちでやっているのはその程度のことなのだが、それでも以前に比べると、多少よくはなってきた。 ツチノコ兄弟はパピーのころからお坊ちゃん育ちなせいか、はたまた元々大らかなドスコイ性格なせいかは知らないが、怖いものが極端に少ない。むろん、彼らにも苦手なものというのはあるのだが、DJの腕を振り回して歩くオバサン軍団とか、カイザーの二宮金次郎の銅像は(何のこっちゃ?と思うかたはこちらを!)、ふだんの生活でめったにお目にかかるものではないために、ほとんど問題になることはない。だが、姫の場合は、日常生活でよく目にする中に苦手なものが多すぎる。たとえば子どもや雷といったごくごくありふれたものに恐怖を感じてパニックを起こす犬は、やはり注意すべき点が多い分、他のコたちに比べると手間がかかるのはたしかなのだ。 だが、それも姫の個性の一部なのだと思えばべつにたいした問題ではないのだろう。人間誰しも苦手なものはある。たとえば巨大な蜘蛛を平気でわしづかみする管理人も、は虫類は大の苦手で、蛇が目の前を横断しようものなら、ちょっと可愛い声で悲鳴を上げる。逆に蛇やらトカゲはぜんぜんOKの妹は、毛虫を見るとゆうに1mくらいは飛び上がる。 嫌いなものは人それぞれだ。どうように、犬にだって苦手なものや怖いものがあったってかまわない、と管理人は思っている。少しずつでも慣らしていって、恐怖の度合いが小さくなっていけばそれに越したことはないのだが、かといって、怖いものがひとつもない、完璧な犬にしようとは思わない。管理人は完璧な人間ではないし、完璧な飼い主からもほど遠い。だから、管理人のようなそこそこの人間には、ちょっと難ありの姫のような犬がお似合いなのだ。 雷が怖い犬というのは、花火もたいてい苦手なのだが、なぜか姫は花火の音にはほとんど反応を示さない。最初一瞬あたふたするものの、これは花火だと判れば、あとは落ちついたものである。 どうやら大きい音が怖いというだけではないようだ。なぜ姫が、ここまで雷を嫌うのか? 独り暮らしをしていたころに、嵐のなかで怖い思いをしたのだろうか? それなら、うちの中にいれば安全だということが判れば、そのうちパニックを起こさずに済む日がくるのだろうか? 管理人の足下で小さくなっている姫を見ながら、姫の過去をあれこれ想像してしまう管理人である。 |
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