食い逃げ
2006 / 08 / 30 ( Wed ) 出稼ぎ先の会社に、新入社員が入ってきた。管理人の出稼ぎ先は、定年退職した人の再就職がメインの会社なので、新入社員といってもうちのジィジと同世代の思いっきりオジサンである。
で、いつものことながら仕事をそこそこで切り上げ、さっそくきょうは歓迎会という話になった。 「管理人さん、帰りに一杯やっていかない?」 だ・か・らぁ〜何度言ったら判るのだろうか。その日に言われても、ほいさっさと飲みには行けないのだよ。何しろ、管理人の帰りを待っている可愛い愛犬たちがいるのだから。 だが、いまは久しぶりに内職は暇つづきだし(けっきょく今月はぜんぜん働いていない小学生のような管理人)いつも断ってばかりでは申し訳ないので、すこぉ〜しだけおつきあいすることにした。 「犬の世話があるし、ゆっくりはできないんですけどぉ〜」 ほいほい誘いに乗るようでは、まだまだ青い。どんなときでも駆け引きは大切である。むろん、ピチピチお肌の20代のころとちがって、これでゲットできるのは、ティファニーの指輪でも、エルメスのスカーフでもなく、単なる特上寿司の折り詰めである。 「じゃあ、きょうは15分早くあがって、それから寿司のおみやげ作ってもらうあいだに一杯飲んで待ってるといい。あっ、タイムカードは定時でつけていいからね」 「いつもすみませぇ〜ん」(ちょっとクネクネ) やった! らっきぴょぉ〜ん♪ オヤジの飲み会も毎回当たり前のように参加すると、段々と価値が下がってしまうものだ。その点、管理人のようにめったに登場しないとなると(じっさい、家に帰ってからまたお仕事なんてことがしょっちゅうだし)たまの飲み会では女王さま待遇である。もともと、還暦前後のオヤジの集団のなかでは、非の打ち所のないようなオバサンであっても、ナウでヤングなギャルなのである(^_^)v 基本的に、会社のオジサンたちはとっても優しいいい人ばかりだ。いつもお菓子やアイスクリームを買ってくれるし(←それで喜ぶ管理人はやっぱり小学生レベル)飲み会の席では小皿に旨そうなものを取り分けてくれる。だが唯一の難点は、オジサンの飲み会に行ったら、もれなく、はしゃぎまくっているオヤジの話を拝聴しなくてはならないというところなのだ。 この点でも、「ゆっくりできないけど、少しだけ」攻撃はメリットがある。オジサンたちが興に乗って大声で昔話を繰りかえすようになるのは、たいてい2本目3本目のお銚子が空いたころで、そのころには、管理人は寿司の折り詰めをいただいて、とっととその場から逃げだしているからだ。 美味しいところだけいただく、まさにこれぞ究極の食い逃げである。 だが、むろんそれを露骨にやったら嫌われる。だから、ちゃんと調子を合わせてオジサンたちにサービスするのも忘れてはならないのだ。 折り詰めを待っているだけなら、お茶を頼めば良いところだが、ここでお茶では運ばれてきたつまみを食べる口実がなくなってしまう。ゆえに、飲みたいか飲みたくないかはべつにして、いちおうおつきあいでもビールの一杯くらいは頼むのが礼儀というものである。そして、オジサンたちと話を合わせながら、すばやく高そうなものだけをつまんで口に入れるのである。寿司屋であればウニ、アワビ類が一番の標的になるのは、むろん言うまでもないだろう。 目は並んだつまみの値踏みをしつつ、オジサンたちの話にてきとうに相づちを打つのも忘れてはならない。 「ええっぇ〜そうなんですかぁ〜?」 「知らなかったぁ〜」 「へぇ〜そうなんだぁ〜」 返答のバリエーションはこの3つで完璧だ。何しろオジサンたちは話を聞いて欲しいのだ。こっちが本気で聞いていようがいまいが、そんなことはどうでもいい。ちなみに、他人の話というのは、てきとうに相づちを打つだけで良ければ、割とどんな話でも聞いていられるものである。 それが、たとえ米穀通帳に関するうんちくであろうが、戦後の闇市の話であろうが、田舎では盆踊りが出会い系サイトであるという珍説だろうが。そして、同じ話をすでに7回は聞いていたとしても、短時間に美味しいものをいただいてトンズラするという崇高な(?)目的さえあれば、人間わりと耐えられるものなのである。 とりあえずテーブルの上の高そうなものをすべて食べ終えたら、そろそろお帰りの支度をする。ここでも、いきなり「帰ります」なんて言った日にゃ、今後の人間関係に支障を来す。あくまでもさり気なく時間を気にする風を装って、オジサンのひとりが「もうそろそろ帰った方がいいんじゃない?」と言ってくれるのを待つのである。 きょうも予定通り店に入って35分で無事その場から逃げだすことができた。手にはもちろん、特上寿司の折り詰めをぶら下げて…… 「じゃあ、また木曜日に! お疲れさん」 ご陽気なオジサンたちの声に見送られ、「あぁ〜きょうも良い一日だった」と自己満足に浸る管理人である。 |
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