凝視
2006 / 08 / 19 ( Sat ) 近ごろ犬猫屋敷は出入り業者が行商の帰りによる峠の茶屋になっている。何しろ、犬連れで何時間でも粘れる深夜営業のドッグカフェは、なかなか世間ではお目にかかれないからだ。
長年のつきあいで、管理人の安眠を妨害しないかぎり、何時に来て何時までいても、管理人および家人がぜんぜん気にしないのを知っているため、最近は他人の都合もお構いなしで、いきなり当日「いまから行く」なんてことも平気でやるようになった。管理人のほうも、これまたいたって平気な顔で、その辺に下がっているパンツやら下着などの洗濯物だけ見えないところに避難させればすべて準備完了である。 何しろ、最初にうちに来たときが、仕事で1ヶ月缶詰のあとぎっくり腰になって掃除どころか歩くのもやっとという最低最悪の状況だったので、それに比べればいまの部屋はいたって美しいものなのである。だいたい、これだけ何度も来ていても、未だかつて、その後具合が悪くなったという話は聞かないので、おそらく犬部屋に巣くっている菌にはすべて耐性があると判断するにはじゅうぶんだ。そんな奴のために、わざわざ掃除するのは時間の無駄だ。 管理人は無駄なことが大嫌いなのである。 ちなみに、家人もいまや越後屋とポセのコンビをお客とはみなしていない。だいたい、他人の家に来て、さっさと自分でスリッパをとって履くような奴は、いいとこ良く来る親戚のオヤジ程度のステータスに成り下がるのである。ゆえに、お客さま用のピカピカのグラスも、金縁の皿も越後屋に出されることはまずありえない。 「なんか、飲み物が出てきても、いつもその辺にあるようなマグカップなわけね」 ちなみに、犬猫屋敷でお客さんと言った場合、通常四つ脚がメインなので、飼い主のほうはあくまでも犬の同行者という扱いしか受けない。 「きょう、客来るから」 これは、もう一頭の隠し子サクラの場合も同様である。サクラが独りで来るわけはないので、もれなくサクラ母がついてくるわけだが、誰ひとりとしてサクラ母が泊まりに来るという奴はいない。ちなみに家人はサクラやポセの飼い主の名前も知らない。彼らは我が家の人間にとってはサクラやポセの飼い主であって、それ以外の何者にもなりえないのである。 で、きのうもそんなこんなで越後屋がふらりとやってきた。ちょっと受け渡ししなくてはならないグッズがあったので、当初宅急便で送ることを考えたのだが、けっきょくわざわざ山を下りて下界までとりに来てくれるという話になったので、ついでに注文していたものも持ってきてもらうことにした。いまや犬猫屋敷はShy Dog最大のお得意さまである。お客さまのニーズにあわせたサービスを提供するのは、商売成功の秘訣なのだ。 ガソリン代が高い昨今、山奥から都会まで出てくる手間と費用を考えたら、宅急便を使う方がずっと賢い選択だ。にもかかわらず、わざわざ店主自ら出向いてくる理由は、管理人(ルビ:愛しのおひぃさま)に一目会うためでは、もちろんない。今回、わざわざやって来た理由は、食べちゃいたいくらい可愛い越後屋ファミリーの新入りCJ(通称ジュニ)を管理人と妹に見せびらかすためである。 猫好きのデカ犬コンビが、興奮してワオワオ騒いだために、ジュニをケージから出して遊ぶことはかなわなかったが、それでもケージ越しにじゅうぶん子猫を堪能した。やっぱり子猫は可愛いぜ! 思わず 「越後屋、これいただくわ。おいくら?」 と訊きそうになってしまったのだが、むろん、可愛いジュニを越後屋が手放すわけもなく、管理人は欲しくても手に入らない子猫を指先でいじくり回すだけで我慢して思いっきりストレスを溜めたのである。 もうひとり、ストレスを溜めまくっていた方がこちら すでにうちには凶暴な猫が3匹も揃っている。全員に思いっきり猫パンチを食らって悲鳴を上げて逃げまどっているわりには懲りない奴である。 「こんな小さい頃から一緒にいれば、きっと猫さんと仲良くなれます」 たぶん無理。おはぎさんとは生まれたときから一緒だけど、やっぱりアンタはハギの暴力行為に日々泣かされているじゃないか。 それでも、やっぱりカイは子猫が欲しくてたまらない。一緒に遊びたくて仕方がないのだ。だから管理人や他の犬たちが飽きてその場を立ち去っても、ジュニのケージの前から一歩も動かずに、ただひたすら子猫のようすを見つめてしまうカイなのである。 |
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